いい生活 Research Memo(5):2026年3月期中間期は費用面で効率化が進み、黒字転換とともに収益性が改善
*12:05JST いい生活 Research Memo(5):2026年3月期中間期は費用面で効率化が進み、黒字転換とともに収益性が改善
■いい生活<3796>の業績動向
1. 2026年3月期中間期の業績概要
2026年3月期中間期の業績概要は、売上高が1,562百万円(前年同期比7.9%増)、営業利益が66百万円(前年同期は27百万円の損失)、経常利益が65百万円(同30百万円の損失)、親会社株主に帰属する中間純利益が39百万円(同25百万円の損失)となった。サブスクリプション及びソリューションの双方で増収となり、特にSaaS導入支援などのソリューションが好調に推移した。費用面では外注費削減など効率化が進み、EBITDAは341百万円(前年同期比46.7%増)と過去最高を更新した。主要業務評価指標(以下、KPI)である有料課金法人数は1,570社(同53社増)、ARPUは約145千円と上昇を維持した。黒字転換とともに収益性が改善し、通期業績予想に対しても順調な進捗を示している。
(1) 利用法人数・店舗数
2024年3月期第1四半期から2026年3月期第2四半期にかけて、同社の利用法人数及び店舗数はいずれも着実に増加した。有料課金法人数は1,492社から1,570社へと78社増加し、サービス利用店舗数も4,589店舗から4,848店舗へ259店舗拡大した。これは、同社の提供する不動産業務支援SaaSの導入が全国的に進んだ結果であり、特に「いい生活賃貸管理クラウド」や業者間流通プラットフォーム「いい生活Square」など、複数サービスの一元導入によるDX需要が拡大したことが背景にある。既存顧客での利用範囲拡大に加え、新規導入企業の増加も寄与し、同社のストック型ビジネスの安定性と市場浸透がさらに強まった。
(2) KPI
同社は事業の主要KPIとして、利用法人数とARPUに加え、特定の期間(月単位)における顧客の売上ベース解約率であるMRR解約率を設定している。このうちARPUは、通信業界で事業における健全性や収益性を評価するために用いられる指標である。同社は顧客から収益を最大化するための戦略を立てる指標としても活用している。MRR解約率は、どれだけの顧客を売上ベースで失っているかを示すもので、事業の持続可能性や収益予想を推測するための指標としている。
(a) ARPU
2025年9月のARPUは、安定成長を示しながら着実に積み上がっている。四半期売上高も過去最高水準に達し、サブスクリプションとソリューションがともに堅調に推移したことで、全体として前年同四半期比10%超の成長を継続した。一方、ARPUは2024年以降、緩やかな上昇基調が続いており、2025年9月には約145千円と前年同月の約140千円から着実に伸長した。2025年3月の約153千円は一時的な大口案件による増加が要因だが、全体トレンドとしてはマルチプロダクト利用やBPaaS導入によるアップセルが継続し、顧客単価の底上げが進んでいる。ARPU上昇と四半期売上の積み上げは、同社のストック収益モデルがより強固になっていることを示している。
(b) MRR解約率
2026年3月期第2四半期のMRR解約率は-0.26%となり、引き続きネガティブチャーンの状態が継続している。これは、解約によるMRR減少を既存顧客のアップセル・クロスセルが上回ったことを示し、同社のプロダクト戦略が奏功していることを裏付けている。四半期ごとに上下はあるものの、2024年3月期から2026年3月期第2四半期にかけておおむね0%前後で推移し、マイナスとなる期も多い。2025年3月期第3四半期は0.48%とやや増加したものの、その後は再び改善し安定化している。継続率の高さは、「いい生活賃貸管理クラウド」や「いい生活Square」など複数サービスの組み合わせ利用が進んだ結果であり、同社のストック収益基盤の強さを象徴する指標と言える。
(3) 人員構成
2025年9月時点の人員構成は、全体で231名(前年同月比7名増)であり、エンジニア・BPaaS支援部門・カスタマーサクセスなど主要機能がバランスよく構成されている。特に注目すべきは、同社が進める「開発内製化」が新卒採用の成果として一層進展している点である。この内製化は直近2〜3年の計画的な新卒採用が奏功した結果であり、プロダクト開発領域を自社で完結できる体制が強化されている。今後についても「大幅な人員増を前提としない微増ペース」を想定しており、既存の開発陣で優先順位を明確にしながら、必要な投資は確実に実行していく方針だ。これにより、開発コストの効率化とスピード向上が両立でき、SaaS・BPaaS戦略を支える組織基盤がより強固になると見られる。
サブスクリプションの安定的収益とソリューション案件の拡大に対応した運営を実施
2. 財務状況と経営指標
2026年3月期中間期末の財務状況は、資産・負債の両面で戦略的な変化が見られた。流動資産は725百万円と前期末比131百万円増加し、特に現金及び預金が345百万円から562百万円へと大幅に上昇した。
流動負債は536百万円と前期末比62百万円増加、固定負債も長期借入金119百万円の計上により122百万円となり、負債合計は659百万円に拡大した。この借入金計上は、サブスクリプションサービスの安定的なキャッシュ・フローとは別に、近年増加している大規模ソリューション案件(特にデータモダナイゼーション案件)の資金回収期間の長期化に備えたものであり、運転資金確保の観点からの戦略的判断である。
安全性指標を見ると、流動比率は前期末の125.4%から135.3%へ改善し短期支払能力は高まった。一方、負債比率は25.5%から35.1%へ上昇し、自己資本比率は79.7%から74.0%へ低下したものの、依然として高い水準を維持しているため財務健全性の懸念は少ない。無形固定資産の増加はSaaS開発投資の継続を示し、同社の中長期的なプロダクト競争力強化につながる構図が明確だ。総じて、安定的なサブスクリプション収益に加え、成長領域であるソリューション案件の拡大に対応したバランスシート運営が行われていると評価できる。
2026年3月期中間期のキャッシュ・フローは、営業活動によるキャッシュ・フローが397百万円と前期通期の316百万円を上回り、ストック収益を中心とした安定したキャッシュ創出力の向上が確認できる。一方、投資活動によるキャッシュ・フローは335百万円支出とプロダクト開発投資は高水準ではあるものの、前期通期の676百万円支出からは縮小しており、開発投資やソリューション案件に関連する支出負担が一定程度落ち着いたことがうかがえる。財務活動によるキャッシュ・フローは154百万円とプラスに転じ、有利子負債の調達により手元流動性を強化した。その結果、現金及び現金同等物の期末(四半期末)残高は345百万円から562百万円へと増加し、財務の柔軟性が高まったと評価できる。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 中山 博詞)
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