東亜建設工業:海洋土木に特化した技術力とグローバル展開で成長狙う、配当利回り5%超え
*14:32JST 東亜建設工業:海洋土木に特化した技術力とグローバル展開で成長狙う、配当利回り5%超え
東亜建設工業<1885>は、港湾・海洋土木工事に強みを持つ中堅ゼネコンで、国内では土木・建築、海外では東南アジアや南アジア・アフリカを中心に海上土木工事を展開する。東京湾埋め立てや羽田空港、中部国際空港といった大規模プロジェクトにも参画してきた。2024年度の事業セグメント別売上高では、国内土木43%、国内建築33%、海外20%、その他(不動産事業、建設機械の製造・販売及び修理事業等)4%と分かれている。国内建設業界における位置づけとしては、海洋土木売上高ランキングで2位、土木売上高ランキングで6位、連結売上高ランキング17位。
(海洋土木売上ランキング、土木売上高ランキングの出展:日経コンストラクション「建設会社決算ランキング2024」、連結売上高ランキングの出典:BuildApp Newsゼネコン売上高ランキング(2023年度))
大きな強みとして、海洋土木のスペシャリストとして自社で船舶を保有し、大型案件にも対応できる体制を整えている点がある。特に東京湾埋め立てのパイオニアとして豊富な知見と実績があり、同エリア内の工事の約8割に関与し他社に比べ地理・環境優位がある。また、建築分野では冷蔵倉庫など温度管理が重要な施設において、経済性に優れた工法で差別化を図っており、さらにPFI(プライベート・ファイナンス・イニシアチブ)事業や海外展開にも注力し、これまでに54カ国・582件のプロジェクトを手掛け、アジアを中心にグローバルな実績がある。プロジェクト地域別割合では、アジア62%、中東22%、アフリカ8%、ラテンアメリカ5%、オセアニア3%となっている(2024年5月末時点)。
※PFI事業:プライベート・ファイナンス・イニシアチブの略。民間の資金と経営能力・技術力(ノウハウ)を活用し、公共施設等の設計・建設・改修・更新や維持管理・運営を行う公共事業の手法。
2025年3月期の売上高は330,472百万円(同16.4%増)、営業利益は20,621百万円(同19.7%増)と2桁増収増益で着地した。国内土木、国内建築、海外それぞれで大型案件が順調に進捗し前年を上回ったほか、高採算案件が順調に進捗して売上総利益率が大幅に改善して過去最高となった。また、受注高は3,537億円(同0.3%増)と海外で複数の大型工事を受注し前年を大きく上回ったことで過去最高の受注高となった。具体的に、海外はもともとシンガポールの案件を想定していたが、バングラデシュが追加されて大幅に上振れた。国内土木は、大型案件を受注した前年度と比較すると減少しているが、1,300億円を超える 高水準を維持。国内建築は908億円(同22.9%減)と高水準を維持するものの、過去最高受注高である前年には及ばず減少したが、病院や福祉施設を受注するなど事業領域の拡大を図ったようだ。
2026年3月期の売上高は335,000百万円(同1.4%増)、営業利益は18,000百万円(同12.7%減)を見込む。受注面では、国土強靭化や防衛費の増強など市場環境は極めて良好であるものの、豊富な手持工事を消化させていくことを優先させることから減少。売上高は豊富な手持工事を順調に消化することにより増収させ、営業利益は単体の売上総利益はほぼ前年並みを見込むものの人材への投資やシステム投資などの積極化により減益となる。期首時点では減益予想だが、設計変更獲得に注力するなど更なる利益の向上に取り組むようだ。
政府予算の動向では、国内土木においては、国土交通省港湾局の予算が国土強靭化5カ年加速化対策を受けて高水準で推移しているだけでなく、防衛関連予算も大きく増加しており良好な市場環境が続いている。インフラ老朽化対策に対するニーズの増加なども含めて、今後も市場環境は継続すると見込んでいる。国内建築でも防衛関連施設の老朽化が進む中、既存施設の更新や新設、改修等の需要の増加が見込まれるほか、海外ではシンガポールやODA等で豊富にある土木分野の案件を着実に確保していく。インドネシアでの現地法人は現地資本案件の取り込みを計画できる段階になってきており、その他の国への現地法人の設立も検討を進めている。
同社は中期経営計画(2023年度~2025年度)を開示しており、また長期ビジョンでは2030年度のグループ売上高2,800億円、営業利益135億円を目標としている(営業利益は更なる向上を目指すとの記載あり)。国土強靭化や防衛費の増強など市場環境は極めて良好で、人材獲得は計画以上に順調に推移しているが人材の量・質を一層充実させながらキャパシティを増強し、着実に営業利益を拡大させていく。また、着床式だけでなく浮体式も含めた洋上風力建設事業への参画により、国内土木事業の領域拡大を図っていくようだ。投資計画では、3年累計で事業領域拡大に約100億円、人材開発に約70億円を投資する予定。事業領域拡大については計画値を下回っているが、施工能力の増強に向けたM&A等も常に視野に入れて検討しているという。
そのほか、PBR向上に向けたアクションプランの見直しも開示しており、投資に加えてバランスシートの見直しも続ける。株主還元の一層の充実や政策保有株式の縮減を更に進め、2025年度末時点で政策保有株式保有額(みなし保有含まず)を連結純資産の10%未満として資本効率性の改善を図る。株主還元では、2026年3月期は配当性向40%以上を確保するとともに、2024年3月期-2026年3月期の3カ年累計で総還元性向70%程度を着実に達成させる。自己株式取得40億円の自己株式取得を予定。今期は増収減益見通しだが、トップラインは微増で、利益面は人材への投資やシステム投資などの積極化により減益予想となっており、市場環境が追い風となる中で過度に悲観する必要もなさそうだ。今期からIR活動の強化に向けた組織再編も実施しており、海洋土木に特化した技術力とグローバル展開で安定成長を狙う同社の動向には注目しておきたい。
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