ドリーム・アーツ Research Memo(7):クラウド事業が前期比34.8%増と成長をけん引
*13:37JST ドリーム・アーツ Research Memo(7):クラウド事業が前期比34.8%増と成長をけん引
■業績動向
1. 2023年12月期の業績概要
ドリーム・アーツ<4811>の2023年12月期の連結業績は、売上高4,440百万円(前期比21.0%増)、営業利益577百万円(同207.9%増)、経常利益563百万円(同210.6%増)、親会社株主に帰属する当期純利益424百万円(同233.8%増)と、増収・大幅な増益となった。主力のクラウド事業が3,127百万円(同34.8%増)と好調で、成長をけん引した。クラウド事業の売上比率は70.4%(同7.2ポイント上昇)、オンプレミス事業と合わせたストック売上高比率は82.8%(同3.9ポイント上昇)となり、安定した収益基盤が整ったと言えよう。クラウド事業のうち、ホリゾンタルSaaSの導入企業数は、140社(前期比41社増)と過去最高の増加となった。これは、オンラインイベントやセミナーを多数開催し、新規顧客への提案を強化したことが寄与した。
また、同社がKPIとしているホリゾンタルSaaSの売上継続率NRR※は123.3%となったが、これは既存顧客のアップセルが好調に推移したことによる。オンプレミス事業はメンテナンス解約を大型ライセンス受注及び値上げがカバーし前期水準を維持したが、プロフェッショナルサービス事業は大型プロジェクト収束により前期を下回る水準で着地した。
※NRR:Net Revenue Retentionの略。1年前(2022年12月)時点の利用企業の月額利用料が、1年後(2023年12月)に変化した割合。
売上原価は、クラウド事業の成長に伴いMicrosoft AzureやAmazon Web Serviceなどのクラウドサービスのインフラコストなどが変動費として増加したが、適切なコストコントロールを継続したことにより、売上原価率は46.7%(前期比3.2ポイント)低下した。この結果、売上総利益率は53.3%(同3.2ポイント上昇)、売上総利益は2,367百万円と同28.8%増となった。販管費は、従業員数の増加(同25名増)や昇給による人件費の増加に加え、新規上場に伴う各種費用などが増加したが、1,790百万円(同8.4%増)に抑え、営業利益は大幅な増益となった。
2.事業セグメント別動向
(1) クラウド事業
a) ホリゾンタルSaaS
ホリゾンタルSaaSで提供している「SmartDB」「InsuiteX」導入企業数は140社(前期比41社増)と過去最高の増加となったことに加え、既存顧客へのアップセルが好調に推移し、売上高は2,207百万円(前期比46.5%増)となり、クラウド事業の成長をけん引した。平均月額利用料(ARPA)については、オンラインイベントやセミナーを多数開催し、新規顧客のみならず既存顧客への提案を強化したことで、2023年12月期第4四半期で1,483千円と2020年12月期以降高い水準を維持し、KPIであるNRRは123.3%となった。なお、ホリゾンタルSaaS売上に占める「SmartDB」の割合は80.6%(2023年12月期第4四半期時点)となり、売り上げ全体に占めるホリゾンタルSaaS(49.7%)に寄与した。導入実績としては、日本経済新聞社がERPシステムを刷新したことに伴い、ERPフロントシステムとして財務会計の周辺業務にまつわる経理業務のデジタル化に活用している事例や、2022年11月より「SmartDB」を導入しているダスキン<4665>が、基幹となる会計業務のフロントシステムとして本格利用を開始した事例などが挙げられる。
b) バーティカルSaaS
バーティカルSaaSで提供している「Shopらん」の導入企業数は174社(前期末比4社増)に留まったものの、大型チェーンストアでの導入が進み、売上高は744百万円(前期比15.8%)と堅調に推移した。ARPAについてはコロナ禍の影響を受け鈍化していたが、2021年12月期第3四半期の301千円で底打ちし、店舗数の多いチェーンへのシフトにより2023年12月期第4四半期には374千円まで増加傾向が続いている。導入事例としては、首都圏を中心に約140店舗の保険薬局を展開する薬樹(株)での利用が挙げられる。薬樹は全社で取り組むDXを推進すべく2022年12月より全店舗で「Shopらん」を利用しているが、回答率や作業実施率が改善されるなどの効果が出ていることから、2023年9月より「フレッシュマニュアル機能」(マニュアル上に店舗独自のやり方やアイデアを店舗メモとして付箋付けできる機能)を活用することにした。こうした機能面での継続的なアップデートは、多店舗展開するチェーンストアから高く評価されているようだ。
c) DCR
「DCR」の売上高は175百万円(前期比3.3%増)となった。特定顧客の個別要件に基づいて開発したシステムをクラウド基盤上で運用しており、契約企業数は3社(同変動なし)であった。継続的な機能拡張によりユーザー数、バインダー数の増加が増収につながっている。
(2) オンプレミス事業
オンプレミス事業の売上高は597百万円(前期比0.2%減)、セグメント利益は270百万円(同13.9%増)となった。パッケージソフトウェアは、既に新規顧客への提供は停止しているものの、既存顧客からの追加受注があったため、売上高が46百万円(同97.6%増)となった。ソフトウェアメンテナンスは、SaaSへの移行などに伴い解約が進行し、売上高は551百万円(同4.2%減)となった。
(3) プロフェッショナルサービス事業
プロフェッショナルサービス事業の売上高は715百万円(前期比4.9%減)、セグメント利益は111百万円(同26.6%減)となった。「SmartDB」の業務適用範囲拡大に伴いERPフロントシステムの大型プロジェクトを受注したことに加え、既存顧客向けプラグインソフトウェアの改修及び追加開発プロジェクトが堅調に推移した。
3. 財務状況
2023年12月期は、2023年10月の新規上場に伴うIPOによる新株発行による収入538百万円などにより、財務活動によるキャッシュ・フローは538百万円の収入となった。一方、ソフトウェアなど無形固定資産の開発による支出138百万円などにより投資活動によるキャッシュ・フローが162百万円の支出となった。営業活動によるキャッシュ・フローは税金等調整前当期純利益563百万円、契約負債の増加446百万円などにより1,184百万円の収入、1,822百万円となった。このうち契約負債については、クラウド事業で一定期間の利用料を前受で受領しており、未履行の部分を契約負債として計上している。これらの結果、2023年12月期末の現金及び現金同等物は前期末比1,567百万円増加し、2,815百万円となった。
なお、新株発行により資本金及び資本準備金がそれぞれ269百万円増加したことに加え、親会社株主に帰属する当期純利益の計上により利益剰余金が424百万円増加したことなどにより、純資産合計は前期末比968百万円増加、1,822百万円となった。ただし、資本剰余金と利益剰余金で、自己株式をそれぞれ324百万円、340百万円消却している。自己資本比率は同11.1ポイント上昇し46.2%となり、財務安全性は問題ない水準と言えよう。EPS(1株当たり当期純利益)は同80.13円増の114.94円となり、高い収益性・成長性を示したが、2024年12月期は同11.50円減の103.44円となる予想であり、引き上げが期待される。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 松本章弘)
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