ウクライナにらむ北欧通貨【フィスコ・コラム】
*09:00JST ウクライナにらむ北欧通貨【フィスコ・コラム】
6年ぶりの米ロ首脳会談で、ウクライナ戦争は終結に向け進み始めました。これによりユーロ圏経済の回復とともに、北欧への恩恵が見込まれます。特に、スウェーデンクローナは地政学リスクで大きく売り込まれたため、その巻き返しが期待されそうです。
米トランプ大統領とプーチン・ロシア大統領は8月15日に米アラスカ州で会談し、ウクライナ戦争終結について協議しました。会談の内容は明らかになっていないものの、今後はウクライナを加えた交渉が予想されます。2022年3月の開戦から3年半が経過し、ようやく地域の和平実現に向けた動きが出始めたことは国際金融市場にとって大きな手がかり。ユーロ圏以外にも様々な恩恵が期待されます。
まず、ユーロ圏にとってエネルギー価格の安定は強い追い風となり、製造業を中心に景気の回復が展望されます。ガス供給不安が後退することで企業活動のコスト構造は改善し、家計負担も軽減されるでしょう。ただ、戦後復興に向けた財政支出が加盟国の財政バランスを圧迫する構図は避けがたく、国債市場の安定性には新たな懸念が加わることになります。
和平は北欧諸国にも明るさをもたらす見込みです。ロシアの西側への対決姿勢が和らぐことで地政学リスクは大きく後退し、外需に依存する産業の見通しが改善します。これまで抑制されてきた消費も徐々に回復に向かい、景気循環の正常化が視野に入ります。輸出競争力を背景とした経済の底堅さが再評価されれば、投資マネーの流入を呼び込みやすい環境が整うでしょう。
特にスウェーデンは北大西洋条約機構(NATO)加盟を果たし、安全保障上の不安が緩和されたとはいえ、ロシアの脅威にさらされる状況が続き通貨クローナは買いづらい状況に置かれてきました。戦争終結によってこうした不透明感が後退すれば、輸出主導の同国経済への信認が高まり、通貨の巻き返しが視野に入ります。欧州経済の回復と連動する形で、クローナは再評価の局面を迎えることになりそうです。
北欧通貨の代表的な通貨であるノルウェークローネとスウェーデンクローナは今後、市場で対照的な動きを示すかもしれません。ノルウェーの成長も期待されるものの、和平実現による原油安で資源収入が減少すれば、同国のクローネは上値の重い展開が予想されます。一方、スウェーデンクローナは原油安をむしろ追い風とし、輸入コスト低下による経済環境の改善を背景に買いが入りやすい構図です。
北欧通貨の動向はエネルギー価格と地政学リスクの方向性によって鮮明となり、投資家に新たな通貨選好の視点を提示する局面が訪れそうです。
(吉池 威)
※あくまでも筆者の個人的な見解であり、弊社の見解を代表するものではありません。
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