PCNET Research Memo(9):情報システム部門の負担軽減につながるサービスの需要を取り込みさらなる成長へ
*12:49JST PCNET Research Memo(9):情報システム部門の負担軽減につながるサービスの需要を取り込みさらなる成長へ
■パシフィックネット<3021>の事業環境と成長戦略
1. 事業環境
(1) ビジネス向けITサービス市場
国内の民間ITサービス市場について、少子化やDXの必要性などからIT人材不足は深刻化しており、同社のサービス分野であるIT機器の管理・運用保守など、企業などの情報システム部門の負担軽減につながるサービスへのニーズはさらに拡大すると考えられる。加えて、テレワーク対応などからクラウド活用は必須となり、企業のDX投資は持続的に拡大すると想定される。政府や自治体ではDXによる業務のデジタル化などが急務であり、自治体向けIT機器の整備とともにIT機器の更新を促す可能性がある。また、企業においても依然としてサポート対応切れPCの利用は少なくないようで、定期的な入れ替え需要は存在すると弊社では見ている。さらにPCの入れ替え等によって生じる運用管理や保守需要の高まりは、企業や自治体等でのIT人材不足ともあいまって、PCの「所有から利用へ」の流れを後押しするだろう。実際、国内企業におけるPCの調達手法においても、徐々にレンタル(サブスク)の割合が拡大しつつあることが指摘されている。同社では、ファイナンスによるPC調達は、現在主流のリース方式から、長期的には、運用管理や保守サービスを包含するサブスク方式を選択する方向へ向かうと予想している。
(2) ITAD市場
ITAD市場において、回収・データ消去市場はWindows 10をOSとしているPCの入替拡大により使用済みIT機器の排出台数が増加に転じるほか、2019年12月に発生し社会問題となったハードディスク転売事件により適正処分の重要性がクローズアップされたことで、データ消去需要は引き続き拡大が見込まれる。2022年5月期はコロナ禍における影響から排出が予想を大きく下回り、2024年5月期終了時点でも本格回復には至らなかったものの、2025年に向けた更新需要に伴い排出量は増えることになる。IT機器のリユース・リサイクル市場については、高い価値のリユース品は安定した国内流通市場が存在している。一方、低価格のリサイクル品に関しては、バーゼル条約(有害廃棄物の国境を越える移動及びその処分の規制に関する条約)の規制強化などにより有害物質を含むリサイクル品の輸出禁止が厳格化されていることに加え、世界的な廃プラスチック問題や中国などの廃プラスチック輸入禁止措置により、プラスチックを多く含むIT機器の海外での流通が難しい状況にある。そのため、近い将来、適正処理に対応したサービスへ転換する必要性が高くなると想定されている。同社は、リサイクル品について以前から国内リサイクルや適正処理サービスを推進しているほか、データ消去サービスも強化している。そのため、今後同事業の業界再編が進むとともに同社の優位性が高まり、適正処理サービスの需要拡大が見込まれると弊社では考えている。
(3) ガイドレシーバー市場
ガイドレシーバー市場においては、観光業界がコロナ禍により大きな打撃を受けたが、2022年以降水際対策の緩和が段階的に進み、2023年4月に入国制限の撤廃、同年5月に5類感染症への移行・行動制限の撤廃、他にも継続した観光支援策が実施されるなど、観光業界を巡る環境は急速に改善した。海外旅行やインバウンドが回復基調となり、大規模工場見学や美術館・博物館鑑賞などの旅行以外の需要も伸びていることから、ガイドレシーバー市場の大幅な回復が期待される。
2. 成長戦略
顧客企業のIT人材不足やIT機器等の管理に関する業務負担軽減ニーズの高まりに加え、セキュリティ対策やコンプライアンス対応等のためのIT機器管理の高度化が必要とされている状況を、同社は事業拡大の好機と捉えている。同社は、顧客企業のPC導入から運用保守、回収・データ消去、リサイクルまでのライフサイクルに関する業務をワンストップで引き受けるという強みを持っている。また、そのノウハウや、充実したサブスクリプション資産をはじめとする設備が参入障壁となっている。この優位性を武器に引き続き顧客企業等に対して使い勝手の良いサービスを提供することで、顧客満足度を高めるとともに、好機を確実に捉えて事業基盤を拡大し収益を高める方針だ。具体的な成長戦略として以下の3点を掲げている。
1点目はITサブスクリプション事業における戦略である。今後のPCの更新需要等もあって顧客企業がPCのサブスクリプション方式による導入にこれまで以上に関心を持つことを睨み、サブスクリプション方式によるPC導入に向けた営業活動をさらに活発化させる。従来は、主に新規顧客獲得に向けた取り組みとして、展示会参加顧客をターゲットに営業活動を推進していたが、加えて、営業手法に関するコンサルティングを導入してインサイドセールス部門を強化することで、アポイントメント獲得率の向上など、新規顧客獲得に関する生産性を高める。同社のITサブスクリプション事業は既存顧客の解約率が低いため、新規顧客の獲得をさらに進めることで顧客基盤が拡大する可能性が高まる。既存顧客に対してはLCMサービスや排出管理BPOサービスといったITサービスをクロスセル・アップセルすることで顧客単価を高め、収益力の強化を図る考えだ。また、近々の戦略ではないものの、顧客単価及び収益力の強化という文脈では、「AIパソコン」が1つのキーワードになろう。社会的に大きな話題の1つになっているが、これはAI処理専用のチップを組み込んだSoC(システム・オン・チップの略)を搭載するPCのことを指す。現状ではコスト面の問題が大きいことから、これらがすぐさまビジネスシーンにおける主流となることは想定しにくい。一方、高機能を背景に、同社顧客において導入案件として出てくるような時期が将来的に到来すれば、同社ビジネスの収益性にもポジティブな影響を与えるだろう。
2点目はITAD事業における戦略である。同事業においては引き続き採算性を重視した事業運営を行う。具体的にはITサブスクリプション事業とのシナジーによるITサービスの基盤拡大である。Windows 10のサービス終了に伴うPC更新需要のタイミングを捉え、新規顧客に対してはITサブスクリプションサービスとともに付帯サービスとしてデータ消去サービスや排出管理BPOサービスを売り込み、既存顧客に対しても付帯サービスの売り込みを活発化させる。PCの再販に関しては、データ消去技術を武器に、PC更新に伴うスペックの高いサブスク終了品の再販を中心に、自社オークションを利用した販路拡大を図る。
3点目の戦略としては、既存事業の成長に加え、M&Aやアライアンスを進めることや、LCMサービスの範囲を拡大させることである。M&Aやアライアンスについては、事業拡大に直結する関連・周辺事業をターゲットとし、顧客企業の情報システム部門の業務改善や生産性向上に役立つサービス提供につながる案件を検討しているようだ。LCMサービスの範囲拡大については、PCの運用保守に付随する、企業のPC利用に関するヘルプデスク支援や、IT資産全体の管理支援等のサービス拡大を目指す。
(執筆:フィスコアナリスト 村瀬智一)
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