バリューC Research Memo(4):不動産DX事業の「解体の窓口」は解体業界に新たな価値を提供する(1)
*14:04JST バリューC Research Memo(4):不動産DX事業の「解体の窓口」は解体業界に新たな価値を提供する(1)
■バリュークリエーション<9238>の事業概要
2. 不動産DX事業
(1) 事業内容
不動産DX事業では、2020年にリリースしたのち急速に伸びている新規事業「解体の窓口」を運営している。「解体の窓口」はユーザーである不動産所有者と解体業者のための自社マッチングサイトで、ユーザーにとっては業者との直接のやりとりが不要なうえ、見積もり比較から解体後の土地の売却まで、すべてオンラインで完結できるサイトである。具体的には、所有物件を解体したいと考えているユーザーは「解体の窓口」に物件情報と写真を送るだけで、全国の厳選された約1,700社(2024年2月末時点)の解体業者の中から低価格の解体費用を見積もった数社の案内が「解体の窓口」から届けられ、ユーザーはその中から気に入った解体業者を選ぶことができるという仕組みになっている。解体業者に対してはオークション形式を取っているが、通常のオークションとは逆に他社より安値で見積もる「逆オークション」の形となっている。このように解体業界に新たな価値を提供する「解体の窓口」は、非常に分かりづらかった業界で価格とサービスを明確化したため好評で、取引高が急増、マッチング希望者数も既に24,000件を超える水準に達するなど、サービス開始から順調に推移している。
さらに詳細を示すと、空き家など保有不動産を建て替えたり売却したりする場合、多くにおいて建物を解体する必要があるため、ユーザーは解体業者を探すことになる。しかし、一般にユーザーには解体に関する知識がない。このため、解体業者を探そうとすると仲介費用が発生するなど時間と費用がかかるうえ、価格や品質などの面でどの解体業者を選択すべきかの判断が困難で、トラブル発生の原因にもなっている。したがって、ユーザー側では、解体業者の選定方法や市場価格が分からず、知らずに高値で契約する傾向があるようだ。一方解体業者側にとっても、受注ルートが狭いうえ、マーケティングに長けた解体業者が少ないことから、直接顧客を獲得することが難しく、一部の解体業者に仕事が集中したり必要以上にマージンを削られたりすることが少なからずあるようだ。このように解体業界は、ユーザー、解体業者ともに不安を抱える未整備な業界構造となっているという課題があった。こうした課題に対して「解体の窓口」を利用することで、ユーザーは複数業者と個別の電話対応をせず、しつこい営業にも合わず、同じ条件で競われた最安値数社の見積もりをオンラインで手間なく無料で入手することが可能となった。また、解体業者にとっても、直接顧客獲得ができるため受け身の経営から脱却することができるだけでなく、単価が向上しマージンを確保しやすくなるため経営も改善することになる。
さらに、同社のコンシェルジュが、ユーザーの物件情報の詳細聞き取りや現地調査日時など、解体業者との調整、ユーザーへの決断に必要な情報提供など、ユーザーと解体業者の間に入って対応を進めており、解体の知識がないユーザーでも安心して解体工事が利用でき、解体業者は顧客とのやり取りをスキップして工事に専念できるのである。もちろんユーザーに紹介する解体業者は、同社で事前に解体工事業の登録や建設業の許可、反社会的勢力のチェック、行政処分歴などを確認したうえで、取引上問題ないと判断された解体業者のみが同社に登録可能で、同社によって解体業者の信頼性が担保される仕組みとなっている。なお、解体業者の見積りに大きな差がある場合はヒアリングを強化して要因を分析し、工法などの様々なノウハウが同社自身に蓄積できるようにしている。また、解体工事におけるトラブルチェックをしているとはいえ、万が一トラブルが発生したときに備えて、三井住友海上火災保険(株)と共同で最大1億円までの保証が可能な保険も用意している。
マッチングといいつつ紹介するだけの丸投げビジネスが多いなかで、「解体の窓口」はこのようにユーザーと解体業者双方ともに安心して利用できる仕組みとなっている。しかし、それだけでなく、解体後のユーザーニーズにも対応しており、不動産仲介会社や売買会社、駐車場会社などを紹介することで手数料を受領するサービスも展開している。このように、デジタルマーケティングを磨き込むことで複数のキャッシュポイントを構築し、1人のユーザーに対しクロスセルできるモデルとなっており、オペレーショナル・エクセレンス※も構築しつつあると言える。さらに、2023年11月の上場直後の12月に改正空き家対策特別措置法が施行されたこともあって、ユニークな事業としてマスコミに取り上げられる機会が多くなった。このため、足元で認知が急速に進み始め、ユーザーや解体業者、さらには解体周辺の事業者などからのアプローチが急増しているもようである。
※業務や仕組み自体に優位性があること。
解体市場の規模は1兆6,000億円を超え、住宅解体市場に限っても9,000億円近い巨大市場になっていると言われている。特に住宅解体市場は、管理不十分な空き家が24万件程度あると言われ、2038年には空き家率が30%を超えるといった推計もあって社会問題化、より深刻な状況になる前に官民連携で課題解決スキームの構築が求められてきた。このため2023年12月に改正空き家対策特別措置法が施行されたわけだが、これにより解体市場の拡大に弾みがつき、中期的に1ケタ後半の成長が見込まれているようだ。なお、改正空き家対策特別措置法の施行によって、管理不全空き家※1が特定空き家※2に追加されることになった。これにより、管理不全空き家について固定資産税を軽減する特例が外れるため、将来的に空き家の固定資産税支払額が4倍に増えるという試算もあり、建て替えや解体の促進につながると言われている。同社にとっては追い風の改正法と言うことができよう。
※1 1年以上誰も住んでいなく、管理が不十分な状態で、今後もそのままの状態が続くと特定空き家に指定される恐れのある空き家。
※2 そのまま放置すれば倒壊など保安上著しく危険となるおそれのある状態、著しく衛生上有害となるおそれのある状態、著しく景観を損なっている状態、周辺の生活環境の保全を図るために放置することが不適切な状態にあると認められる空き家。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 宮田仁光)
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