日本農薬:日本初の農薬専業メーカー、海外展開加速と中期経営計画で描く持続成長戦略
*11:17JST 日本農薬:日本初の農薬専業メーカー、海外展開加速と中期経営計画で描く持続成長戦略
日本農薬<4997>は、日本初の農薬専業メーカーとして国内外で事業を展開し、長年にわたり農業の生産性向上に貢献してきた。創業は1928年と歴史が長く、現在はADEKAの連結子会社となっている。国内外に22社のグループ企業を持ち、海外展開比率が高いグローバル企業であり、世界的に見ても中堅規模の農薬メーカーとして地位を築いている。アジア・ヨーロッパ・米州の三極体制で海外拠点の拡充を図り、世界100カ国以上で同社製品の農薬登録を取得してきた。売上高(単体)の約10%を継続的に研究開発に投資しており、同社が開発・権利化した農薬原体は24、医薬・動物薬・化学品の原末は合わせて5つあり、今後も3年に1剤のペースで新剤を生み出していくことを目標としている。
事業構成は農薬事業が主力で、除草剤・殺菌剤・殺虫剤・植物成長調整剤などを国内外で展開するほか、医薬・動物薬やシロアリ防除剤などの農薬以外の化学品事業も手掛ける。25年3月期の売上高構成比は海外農薬販売が69.2%(アジア21.1%、米州57.2%、欧州19.2%、その他地域2.1%)、国内農薬販売が23.3%、農薬以外の化学品が3.5%を占める。農薬の販売金額シェアは、国内において約5%で第8位(出荷金額、2020農薬年度)、世界では約1%で第15位(売上高、2022年)となる。
同社の強みは、強固な新薬創出基盤とグローバルネットワークによる製品開発・販売力にある。化学・生物・安全性研究一体の効率的な研究開発体制をとるほか、グローバルに拠点を展開し、自社製品開発と販売を推進している。また、日本の水稲だけでなく果樹・野菜といった収益性が高い園芸用殺虫剤で豊富な販売実績があり、模倣が難しい剤型や作物適合性を持つ製品を武器に、海外売上比率69%超という高いグローバル比率を実現している。さらに、農薬の出荷金額が世界第1位で今後も需要増が見込まれるブラジルに連結子会社を持ち、同社が主導して自社開発の農薬を拡販する体制を持っている。そのほか、技術ライセンスによるノウハウ技術料を安定収益源として確立。農薬産業は気象条件や市況に左右されやすいが、技術料収入は比較的安定している。そして、親会社ADEKAとの連携を通じて研究・開発や資本政策の面でも安定性を確保しており、持続成長に資する経営基盤を整えている。
2026年3月期第1四半期の連結業績は、売上高27,133百万円(前年同期比41.0%増)、営業利益3,542百万円(前年同期164百万円の赤字)と大幅な増収増益を達成した。主因は海外農薬事業で、北米や欧州での除草剤や殺ダニ剤の需要拡大が収益を押し上げた。国内農薬も水稲向け製品の販売が好調で、主力自社開発品拡大とコルテバ社製品好調により売上増加した。加えてノウハウ技術料や医薬品事業も利益に寄与した。一方で、研究開発や販売強化に伴う販管費増加や、為替コストによる逆風はあったものの、全体としてプラス効果が上回った。
同時に業績予想の上方修正を発表、上期の売上高48,000百万円(従来計画42,900百万円)、営業利益3,100百万円(同1,400百万円)、通期の売上高109,000百万円(同107,500百万円)、営業利益8,500百万円(同8,000百万円)に引き上げた。国内農薬販売において、米価高騰による生産意欲の高まりから、主力自社開発品目をはじめとした水稲向け製品の販売が好調に推移。海外農薬販売では、各製品の販売が増加したほか、現地での生産都合や米国の関税引上げの影響などにより販社への荷動きが早まったことが寄与する見込み。通期では、新たにベトナム子会社Nichino Vietnam.Co.,Ltd.の損益見通しを業績予想数値に取り込んだことに加え、海外農薬販売における前述の殺ダニ剤の販売増加が寄与する見込みとなっている。
世界の農薬市場は、世界的な人口増加や新興国の経済発展などを背景とした食料需要の拡大から、今後もグローバルな農薬市場は拡大基調となることが見込まれる。世界の農薬市場は今後5年間、年平均2.1%の成長を遂げ、2029年には778億ドル、およそ11兆円に達するとされている。
同社は中期経営計画「Growing Global for Sustainability (GGS)」(2025~2027年度)を開示しているが、2027年3月期に売上高1,200億円、営業利益率9%(営業利益108億円超)、ROE8.0%以上を目標としている。さらに、2030年度の長期目標を見直しており、売上高1,650億円以上、営業利益率10%以上、ROE10%以上を掲げる。既存事業は市場成長を上回る毎年約5%の成長を継続、蓋然性が高くなりつつある香料・化粧品分野、生物農薬およびバイオスティミュラントなど新規事業の売上高150億円を上乗せしている。重点戦略は、競争力ある独自農薬の拡販、成長市場での事業拡大、国内外での収益性重視である。成長市場の中南米、アジア太平洋(インド)市場では、高付加価値のSpecialty Crop向け製品を積極的に投入し、成熟市場では製品を充実させていく。さらに、人口増や環境の変化を踏まえたサステナビリティ経営の推進、インドにおける新規水稲用殺虫剤の販売、農業資材「バイオスティミュラント」の展開の本格化等にも取り組む。そのほか、目的別にM&Aなど戦略的投資のターゲットを定めて機動的且つ積極的な検討を継続するようで、特に新規事業育成に当たっては、生物農薬・バイオスティミュラント等の品目買収やベンチャー企業との提携・出資を積極的に検討しているという。
株主還元については、2025年3月期に年22円の配当を実施し、2026年3月期は25円への増配を予定している。中期的には配当性向の引き上げを掲げ、2030年度には配当性向50%を目指す方針。総じて、日本農薬は海外農薬市場の成長と自社製品のユニーク性を背景に、持続的な収益拡大が期待できる企業で、中期・長期計画で数値目標を明示している点は投資家にとって評価材料となる。今後の成長シナリオが具体的に描かれている中、持続的な成長に注目しておきたい。
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