室町ケミカル Research Memo(7):2032年5月期に売上高100億円・営業利益率10%以上を目指す(2)
*12:07JST 室町ケミカル Research Memo(7):2032年5月期に売上高100億円・営業利益率10%以上を目指す(2)
■室町ケミカル<4885>の今後の見通し
c) 化学品事業
イオン交換樹脂・分離膜など水処理商材の国内市場は、汎用的な純水製造用途については競争が激しいものの、特殊な液体処理案件については高い技術力が求められるため参入障壁が高い。また、業界としてはエネルギー関連や半導体関連での成長が期待できるほか、生活インフラである水道水分野も新たな市場として注目され始めている。
こうしたなかで、成長戦略として以下の2点に取り組んでいる。
・海外イオン交換樹脂メーカーとの共同開発品の拡販(火力・原子力発電所向け高架橋度イオン交換樹脂、半導体関連向け高純度イオン交換樹脂)
・競合の少ない特殊な液体処理でのニーズ取り込み
2025年5月期の業績目標として、売上高2,600百万円、営業利益170百万円を掲げて新規市場の開拓などを推進してきたが、若干目標には届かないペースとなっている。とは言え、イオン交換樹脂の新市場の開拓については着実に成果が出始めているほか、今後は水道事業者向けでも新規需要が見込まれ、中期的な成長期待は一段と高まっている。
水道事業者向けについては、2024年6月に岡山県内の水道水から高濃度のPFASが検出されたことがニュースで大きく取り上げられ社会問題化したことをきっかけに、環境省が水道水に含まれるPFASの基準値を従来の「暫定目標」から水道法上の「水質基準」に格上げする方針を決定し、注目度が高まった。基準値については50ナノグラム/L※で変わりないが、「水質基準」に格上げされたことで、水道事業者には定期的な水質検査の実施や、PFASの濃度が基準値を超えた場合の改善が義務づけられる。
※ 水道中のPFASのうち、健康への有害性が指摘されているPFOS(ペルフルオロオクタンスルホン酸)とPFOA(ペルフルオロオクタン酸)の2つの物質の合算値。体重50kgの人が毎日2L飲用し続けても、健康に悪影響が生じないと考えられる水準として設定された。
現在、上水道の浄水施設では安価な活性炭が主に用いられているが、吸着性能※でより優れるイオン交換樹脂の需要が見込まれており、現在、商社や装置メーカーなどと共同で営業活動及び試験評価作業を進めている。同社は、PFAS除去用イオン交換樹脂として自社ブランド「Muromac WMT-718B」とランクセス製の「Lewatit TP108DW」の2製品を揃えている。浄水施設の浄化工程において活性炭処理の後段にイオン交換樹脂を配置することでコストを抑えつつ、PFAS除去性能を一段と高めるソリューションを提案していく。実際に売上貢献し始めるのは2026年以降となりそうだが、成長期待は大きい。
※ 活性炭に比べて、単位面積当たり吸着容量が5~10倍と大きく、吸着したPFASが分離しにくい。長鎖から短鎖まで幅広いPFAS物質に対応可能。
また、PFASのモニタリング技術についても簡便な分析方法を確立し、検査にかかる時間短縮と検査分析装置の低価格化を目指し※、東京学芸大学や分析装置メーカーと共同で研究開発を進めている。2026年度中に実証試験を開始し、2027年度の実用化を目指している。さらには、PFAS吸着用イオン交換樹脂の再生技術についても基礎技術を確立済みで、2026年以降の実用化に向け、複数のメーカーといくつかの手法について検証作業を進めている段階にある。同社では、イオン交換樹脂に加えてモニタリング技術、再生技術と3つのソリューションを一括提供していくことで差別化を図り、水道水事業者向けの市場を開拓する戦略だ。
※ 原水に含まれるPFASを濃縮する技術と既存の分析手法の改良・組み合わせにより、分析時間を数時間程度に短縮し、現在分析に用いられている液体クロマトグラフ質量分析計(1台数千万円以上)に対し価格を10分の1程度に抑えることを目指している。
水道事業者には上水道の浄化施設からPFASの「水質基準」の適用が開始されるが、将来的には下水処理施設においても同基準が導入される可能性がある。水道事業者向けの潜在需要については必要量などがまだ不明なため試算できていないが、イオン交換樹脂の売上拡大に向けて追い風になるのは間違いなく、今後の動向が注目される。
(3) 長期ビジョン
同社は中期経営計画の策定とあわせて長期ビジョンを発表している。10年後の目指すべき姿を、「豊富なノウハウと確かな技術を活かし、顧客の問題を解決するオンリーワン企業」とし、2032年5月期に売上高100億円・営業利益率10%以上を目指す。
「健康」と「環境」をテーマとした社会課題について、医薬品事業、健康食品事業、化学品事業と3つの事業それぞれで独自のソリューションを展開することで持続的成長を図るオンリーワン企業を指向する。2026年5月期からスタートする新中期経営計画の内容については、2025年7月に発表する予定だ。当初の業績目標としては、既存事業の収益力強化と新領域の収益化によって売上高80億円・営業利益率9%以上を設定していた。現在、3事業ともに顧客からの要望も含めて新規開発案件が増加傾向にあり、これらが受注に繋がれば事業規模は一段と拡大し、収益性も向上することが予想される。
■株主還元方針
配当性向20%以上を目標に業績に応じた安定配当を行う方針
株主還元については、安定的な配当を行うことを基本としており、業績、配当性向に加えて成長投資を行うための内部留保の水準なども配慮しながら、総合的に勘案して決定している。2025年5月期までの中期経営計画においては配当性向20%以上を目標に配当を実施する方針とし、2025年5月期は前期比3.0円増配の25.0円(配当性向33.3%)と2期連続増配を予定している。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 佐藤 譲)
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